午後の紅茶



「ロムー! フィアー! あまり遠くへいってはいけませんよー!」

「はーい!」

「わかってますー!」

 青い髪をした双子達は、元気に駆け出していく。

 そんな無邪気な子供達に、二人の女性はくすくすと笑った。

 片方は年齢は二十八歳頃。金髪を三つ編みに編んだ、物腰穏やかな美人だった。もう一人の女性は、二十歳になったばかりの、まだ少女の面影を残した人だった。隣の女性とは八歳ほど年下だが、彼女の方がどことなく大人びた風貌をしているのは、すでに二児の母親だからだろう。

「ふふ、かわいいわね。あんなにはしゃいじゃって。ねぇ、フローラさん」

「そういって頂けると、嬉しいですわ。ビアンカさん」

 二人は微笑みながら、ベランダのテラスの上で紅茶を嗜む。いつも、戦いに明け暮れていたフローラ達には、久方ぶりの午後の一時だった。

 かつては、望んだことではないにしろ、花嫁候補として一人の男性の前に立った二人だったが、今では気兼ねなく会話を交わすまでに仲良くなることができた。今もこうして、時間を作ってはお互いに親睦を深めにきている。

「そういえば、今日はだんな様は一緒じゃないのね」

 ふと、ビアンカが尋ねる。すると、フローラは苦笑しながら答えた。

「今日はお城で内政のお勉強ですわ。オジロン叔父様にみっちりと」

「あはははは! まぁ、確かに、今までが今までだったからね。でも、気の毒に ねぇ。リュカも、フローラさんと一緒にいたかっただろうにさ」

「ビ、ビアンカさん……」

 思わず、フローラはポッと顔を赤らめる。そんな彼女のうぶな反応を、ビアンカは素直にかわいいと思えた。

 ……リュカの会話でここまで素直に話ができるなんて、八年前までは想像もつかなかった。あの頃は、一時とはいえ、自分の好きな男性を奪っていったフローラを恨みもしたこともあるというのに。

 だけど、それも今では昔の話。現在では、こうして屈託なく楽しくお話ができる。それは、フローラさんが見かけどおり、とてもいい人だったからか。それとも、自分が歳を取ったからか。

「……フローラさん」

 ふと、ビアンカが真剣な眼差しで呟いた。

「今、幸せ?」

「ビアンカさん……えぇ」

 フローラも、真正面から彼女と向き合って、頷く。

「私、今が一番幸せな時だと思います。愛する夫がいて、子供達がいて。その三人 と、同じ時間を共有することができるのですから」

「羨ましいな」

「え?」

「フローラさん」

 再び、ビアンカは微笑みながら言った。

「私ね、結婚しようと思うの」

「え、えぇ!?」

 突然の告白に、フローラは思わずイスをガタッと鳴らした。

「だ、誰とですか!」

「ウッドっていうの。私と同い年の、この村に住んでいる青年よ。引っ越してきたばかりの私達一家の面倒を、ずっと見てきてくれた人なの。素朴だけど、とっても優しくて、包容力のある人。この家だって、ウッドが建ててくれたのよ」

 そう語るビアンカの頬は、ほんのりと朱色に染まっている。

「は、初めは、全然そんな気はなかったんだけどね!」

 照れ隠しに笑いながら、ビアンカは三つ編みをいじりながら続けた。

「けど、もう十年近く一緒に暮らしているからさ。情も移っちゃって。その、なんとなくだけど、いいなって、思えるようになってきたの。それに、幸せそうなフローラさん達を見ていたら、私も、家庭が欲しいなって、思えるようになっちゃって……」

「お、お」

「お?」

「お、おめでとうございます! ビアンカさんっ!」

 感激のあまり、フローラはビアンカの手を両手で掴んだ。

「あ、ありがとう」

 あまりのことに、呆気に取られながら、ビアンカは頷く。

「ビアンカさんがご結婚なさるなんて。こんなに嬉しいニュースはありませんわ♪」

「祝福して、くれるんだ」

「当たり前じゃないですか。嬉しいですわ。とっても」

 ぽん、と両手を合わせながら、フローラは嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑ん だ。

「結婚式には、ぜひ呼んでくださいましね! 結婚して、赤ちゃんが出来た時も、ぜ ひ私に相談してくださいませ! これでも一度経験しているので、あっ、アドバイス できるほどでもないですけど」

「フ、フローラさん、と、とにかく、落ち着いて」

 スイカの種のように話し立てるフローラに、ビアンカはもうたじたじだ。

「あ、ご、ごめんなさい。私ったら、つい」

 慌てて、彼女は口元を手でさえぎる。そんなフローラに、ビアンカは思わず、プッと噴き出してしまう。

 大丈夫だ。これなら、この人とは、この後もずっと、上手くやっていけそうだ。

「フローラさん、これからも、よろしくね」

「はい、こちらこそ」

「これからは、家族ぐるみで、ね」

「はい!」

 夕日に空が赤く染まる中、二人は残り少なくなった紅茶で乾杯をした。

 景気のいい音が、秋の夕暮れに溶けて消えた。





 END





投稿者(花屋敷史佳様)のコメント

フローラSSというより、フローラエンディング後のビアンカSSといったところです。最後の戦いが終わって、エンディングにビアンカが「私も今からでも遅くないから、いい人見つけようかな?」のようなセリフを言っていたことから連想したのが、このSSです。ビアンカがいつまでもひとり身のままなのは、個人的に納得できないので。賛否両論あると思いますが、こういうSSが世の中に一つくらいあってもいいではないかと開き直って書きました。どうもすみません。ではでは!

管理人のコメント

フローラファンにとっても、ビアンカのその後は気になりますよね。例の彼については本当に賛否両論で…私はどちらがいいというはっきりとした意見は持っておりませんが、ビアンカにも幸せになる道があるのなら、それが一番いいと思います。例の彼がどんな人物なのか実際のプレイではよくわかりませんが、少なくとも私はこのSSを読む限りでは、ビアンカもとても幸せそうで、こういう形もいいな、と思いました。花屋敷様、素敵な友情SSありがとうございました!








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